(約1100字、約3分)
爪の垢ほどもないミリタリー感そのものがもうネタな気のする、炊き出しの一風景。
元々は「風景写真を描写しよう」という企画で書いたものですが、企画趣旨からは少々外れています。
最後のおまけは、本当におまけ。
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初稿:2014.11.06
【喧嘩するほど……】
虎じまロープの向こう側、床屋カラーのテントの下。そこに据え置かれた深緑色の炊事車の上や周りを迷彩色が歩き回っている。
緑の制服にベレー帽姿で、『広報』の腕章をつけた幹部自衛官が子ども達(全員小学生だろうか?)を引き連れてきた。
その内の一人、ロープから身を乗り出して眺め始めた男の子を「危ないからもう少し下がってね」とたしなめる。
話しかけたからだろうか? 少し内気そうなその子から「オジサンは料理しないの?」と質問された。オニイサンじゃなかったことに引っかかるものはあったが、素直に答える。
「周りに危険を見つけたら、今みたいに注意をする“安全係”だからね」
その後も熱心に眺め続ける男の子が、まるで昔の自分のように見えてきて思わずニヤニヤしてしまった。迷彩服を着てなきゃ、ただの不審者だ。
「あ……君! みんなに置いてかれちゃうぞ?」
動き出した見学者達のことを伝えたが、どうも耳には届いていないらしい。そこまで集中して見ていることが何だか可笑しくて、つい大笑いする。
「アンザイ、うるさいぞ!」
「――はははは! いやぁ、すみません。黙ります」
今回の炊き出しで調理長をしているハナゾノ2曹から飛んできた一喝に、少々軽いが謝っておく。
ひとしきりクスクス笑った後で、男の子にまた話しかけた。
「あのオジサンね、怖そうに見えるけど、君と同じくらいの娘さんにはそりゃもうデレデレなん――」
「アンザイ……なに勝手に個人情報垂れ流してんだ、コラ」
いつの間に炊事車を降りてきていたのか、振り向くとそこには仁王立ちしたハナゾノ2曹がいた。
「これはこれは調理長! 豚汁、煮立っちゃいますよ?」
「おいシバタぁ! 汁番頼む!」
ハナゾノ2曹の号令で、小柄で童顔のシバタ士長が炊事車の上にあがってお玉を手に汁をかき混ぜ始める。
「ちょっとちょっとぉ! 俺のシバタ士長、こき使わないでくれます?」
「おう、アンザイ。一発で陸曹試験を通ったからって、調子に乗りすぎだ。そんなバカに育てた覚えはないぞ」
「両親と、この大地以外に育ててもらった覚えはございませんが?」
「ぬぁーにを、減らず口を! ちょっと、そこに直れや!」
部隊内ではお決まりの漫才みたいなそのやり取りを聞きつけたのか、単に男の子を探しにきたのか。戻ってきた先程の幹部に二人ともコッテリ絞られました。
[了]
* おまけ *
――シバタ士長 が現れた!
――シバタ士長 が話しかけてきた!
「……なぁ、アンザイ」
――シバタ士長 の突然の攻撃!
――『恐怖のスマイル』!
「私、いつからアンタのものになったの?」
――配属同期のアンザイ3曹 のメンタルが砕けた!
――シバタ士長(女) に敗北した……
《GAME OVER》
「すいませんっしたぁぁッ!!」
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